第1回クラシック音楽アワード 2026 授賞式レポート

 2026年9月4日(クラシック音楽の日)、「第1回クラシック音楽アワード 2026(CLASSICAL MUSIC AWARDS 2026/CMA)」授賞式および記者会見が、サントリーホール ブルーローズで開催されました。

「第1回クラシック音楽アワード 2026」授賞式     Photo: Akira Muto © 日本クラシック音楽事業協会
左から:朝岡聡氏、仲道郁代氏、naco氏、古坂大魔王氏、入山功一氏

 クラシック音楽アワードは、クラシック音楽の魅力をより広く社会に発信するため、一般社団法人日本クラシック音楽事業協会が新たに創設した、クラシック音楽の普及に貢献している文化人・著名人を顕彰する、日本初のクラシック音楽に特化したアワードです。受賞者には「クラシック音楽アンバサダー」の称号が授与され、クラシック音楽の魅力を広く発信する活動をしていきます。副賞として、協会加盟団体から年間計約100公演(総額約200万円相当)が提供され、受賞者は希望する公演を鑑賞することができます。

 授賞式は、司会を務める朝岡聡氏の進行で始まり、続いて日本クラシック音楽事業協会会長の入山功一氏が登壇し、アワード創設の経緯について述べました。
「クラシック音楽アワードの構想は随分前から協会内で議論されてきましたが、コロナ禍などによって着手できない時期を経て、ようやく本日を迎えました。そのように考えると、このクラシック音楽アワードは、コロナ禍を乗り越え、クラシック音楽界が今後の発展へと向かっていく一つの象徴ともいえます。受賞者3名の皆様には、クラシック音楽アンバサダーとして一層クラシック音楽の普及に努めていただければと願っています」

 続いて、受賞者の発表が行われました。選考は、一般から寄せられたアンケートをもとにアワード実行委員会が行い、今回はアンケートで83名の候補者が挙がり、その中から3名が受賞者に選ばれました。プレゼンターを務めるのは、日本を代表するピアニストであり、日本クラシック音楽事業協会理事の仲道郁代氏。第1回の受賞者が、仲道氏から発表されました。

 1人目の受賞者は、お笑い芸人、音楽プロデューサーの古坂大魔王氏。テレビ朝日「題名のない音楽会」への出演、「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」「青い海と森の音楽祭」など、クラシックの音楽祭でアンバサダーや進行役を務め、また、新たな視点からクラシック音楽の魅力を伝えてきた功績が評価されての受賞です。

 仲道氏から賞状、トロフィー、副賞が授与されると、古坂氏は大きくガッツポーズを決めました。「みなさん、なぜお前が?と思っていると思います。大丈夫です。僕も思ってます」と会場の笑いを誘い、「僕が今やっているテクノ系の音楽も最先端だと思っていますが、クラシック音楽も、当時の最先端の音楽。最先端を突き抜けていくと、歴史に残るものがある。つまり、人々を感動させた音楽が、クラシック音楽だと思います」とコメントしました。

プレゼンターの仲道郁代氏と、受賞者の古坂大魔王氏

 2人目の受賞者は、俳優の高橋克典氏。NHK Eテレ「ららら♪クラシック」の司会をはじめ、音楽コンサートでナビゲーターや語りを務め、クラシック音楽の普及に寄与してきた功績が評価され、受賞に至りました。当日は仕事の都合により欠席し、司会の朝岡氏がメッセージを代読しました。

「両親がクラシック畑の人間で、幼い頃からクラシックを聴いて育ちました。大人になって音楽番組やコンサートに携わるようになり、改めて音楽の持つ力の大きさ、深い魅力を感じています。受賞を励みに、これからもクラシック音楽の素晴らしさ、楽しさや魅力をわかりやすく、少しでも多くの方にお伝えしていければと思っています」(高橋氏メッセージ)

 3人目の受賞者は、YouTuberのnaco氏。登録者数35万人を超える、日本最大級のクラシック音楽解説チャンネル「厳選クラシックちゃんねる」で活躍するほか、コンサートの企画や司会などにも活動の場を広げ、幅広くクラシックの魅力を届けてきた功績が評価されての受賞となりました。

 この日はシックな黒のロングドレスで登場し、普段のYouTubeでの活動とはまた異なる姿を披露しました。受賞の心境を聞かれ、「好きが高じてYouTubeでいろいろ情報発信していましたが、こうした機会をいただき、身に余る光栄です。クラシック音楽をたくさんの人に知っていただき、多くの人と一緒に楽しめる未来を作りたいと思います」と喜びを口にしました。

プレゼンターの仲道郁代氏と、受賞者のnaco氏

 授与の後には、プレゼンターを務めた仲道氏が受賞者への祝福を込めて、グリーグ作曲の「ホルベアの時代より」から〈前奏曲〉を演奏しました。「“バッハやベートーヴェンのような芸術家たちは、高い場所に教会や神殿を築き上げた。私は、人々が幸せに、寛いで過ごせるような住まいを建てたかった”と、グリーグは言いました。このプレリュードは、誇り高く生きてきた昔の人たち、そして今を生きる人たちへの賛歌だと思っています」と仲道氏が曲を紹介。豊かな音色で会場を包みました。

受賞者への祝福を込めて、仲道郁代氏が演奏を披露

 授賞式に続いて、記者会見を開催。古坂氏、naco氏、入山氏の3名が会見に臨みました。

 自身とクラシック音楽との関わりについて聞かれると、古坂氏は「子どもの頃はゲームミュージックやコミックソングを聴き、その後テクノにも傾倒しました。クラシック音楽に関わるようになると、音楽を聴くのに(難しい)知識はそんなに必要ない、“いいもの”はいいんだと気づきました。目の前で鳴った音がすごければ、感動する。例えば、ヒマラヤを見てすごいと感動するように、音楽を香りや匂い、景色のように捉えています」と、知識にとらわれずにクラシック音楽を楽しむ魅力を語りました。
 クラシック音楽の魅力について、naco氏はまた違った側面から、「ピアノを習い始めたのをきっかけに、クラシック音楽に触れました。クラシックを浴びるように聴き、素敵だなと感じてきましたが、最近思うのは、(音楽的な)知識が加わるとまた新しく聴けるということ。そこから奥深さに触れることもでき、それもまたクラシックの魅力だと思っています」と、知識を得ることで楽しみが広がるクラシック音楽の奥深さを語りました。
 クラシック音楽には、異なる入口から触れてもそれぞれに多様な楽しみ方を見つけられる魅力がある、そのことを改めて感じさせる会見となりました。

 クラシック音楽を聴く観客の高齢化について問われると、「現代の人たちの体感時間は、昔の10倍くらい早くなっていると思う。そこに特化した、ぎゅっと(凝縮して)説明できるような作品があったらいい。または、ベートーヴェンなどの作曲家をアニメ化したり。クラシック音楽って、触れさえすれば誰も素晴らしいと感じるはず。僕がそうだったので。時代に合わせて、いろいろ試行錯誤していくのが大事だと思う」と古坂氏。
 一方、会長の入山氏は、「クラシック音楽界に入り42年目ですが、その当時から高齢化が心配されて、いろいろな取り組みも行ってきました。ある時、(年月を経ても)ずっと高齢化に気を取られていることに気づきました。実は、経済面も含め生活に余裕が出てくる時に、クラシック音楽に傾倒する方が多い。従って、高齢化を理由にいたずらに悲観することはないと考えています。しかし、高齢になってからクラシックを聴きはじめる人の背景には、幼い頃にクラシックに触れた経験がある。ですから、若い人たちにもっとクラシック音楽をアピールする努力をしていかなければいけない」と前向きな姿勢を示しました。
 naco氏も同意し、「幼い頃にベートーヴェンのピアノ・ソナタ『月光』第3楽章を聴いて、感覚的に“かっこいい”と思いました。今は、その時にはしっかり理解して味わえなかった第2楽章に心を震わせることもあります。いろいろな体験をしてきたからこそ、曲の魅力がわかる瞬間があると思います。扉を開ける機会さえあればクラシックの世界に入ってくると思いますし、私がYouTubeで発信していることもその扉の一つになれたらうれしいです」と答えました。

 「好きな作曲家、演奏家は?」という質問には、古坂氏、naco氏ともに「それは、(選ぶのが)難しいですね……」と悩ましげな表情を見せながらも、naco氏は「誰か1人を選べと言われたら、ベートーヴェンと答えることにしています。年末には『第九』のコンサートをはしごします。演奏家では、仲道先生、チェリストの宮田大さん……。挙げるとキリがありません」と、クラシック音楽への愛情を伝えました。
 古坂氏は、「サティとリスト。リストは超絶技巧の持ち主で、アイドル的な人気を誇る演奏者という一面もあり、観客に“音楽”をどう見せるかを、常に考えていた人。ピアノを低音から弾いて高音で終わると、最後に客席の方を向くことになる。そこでお客さんはキャーッ!と言う。全てのジャンルは、観客、すなわち観てくれる人を無視すると廃れていく。リストは、そこを一生懸命やったのだと思います」と答えました。

「一般の方にクラシック音楽をどのように楽しんでもらいたいか?」との質問には、「クラシックコンサートに行くと、聴いているというより、アトラクションに乗っている感じがする。数百年も前の文化や文明を体感できる音楽ということで、クラシックをおすすめします」と古坂氏。自身の体験を交えながら、クラシック音楽の魅力を語りました。
 naco氏は、「人によって楽しみ方はさまざまで、例えば偉人の伝記から作曲家に興味を持つ方もいるかもしれません。ただクラシックの魅力の一つは、やっぱり生音(なまおと)。多くの人に生演奏の魅力を感じてほしい」と話しました。

 クラシック音楽アワードの今後について質問が及ぶと、「毎年実施していく予定」と入山氏が回答し、本企画の動機について言及しました。「このアワードを始めたきっかけとして、クラシック音楽界がクラシック音楽の魅力を広める発信を十分にできていなかった、という反省がありました。しかし、コロナ禍の際には、この困難を乗り越えようと、オーケストラや個人、演奏家と結束して協議会を作り、様々なコンサートに一緒に取り組みました。今回のアワードも、いろいろな事業者が協力して作り上げています。こうした共同作業を積み上げる取り組みを数多く発信できれば、より良い人の輪が広がっていくという想いがあります。このアワードはそれらの事業の一環でもあります」と締めくくりました。

 今回の受賞者3名は、クラシック音楽アンバサダーとして、クラシック音楽の魅力をより広く発信していきます。また、クラシック音楽アワードでは「第2回クラシック音楽アワード 2027」に向けた推薦アンケートを実施しています。推薦は公式サイトから受け付けています。

文・小野寺悦子(ライター)
写真:武藤章

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